≪宅建試験対策≫抵当権と賃借権の優劣
担保物権の本試験出題頻度は毎年1~2問です。
物権は民法の中でも、最も難しいと言われています。
本試験合格を考えると、民法では14問中8問は正解しておきたいところです。
必ず出題されている「抵当権」を確実に正解するため、「抵当権」だけに絞って勉強することもありだと思います。
しかし、ほかの項目も絶対正解しておきたい分野の基礎知識になるため確実に合格したい人は学習しておくべきです。
抵当権と賃借権の優劣
「抵当不動産の賃借人」とは、抵当権の目的物である不動産を賃借している人のことをいいます。
抵当権と賃借権の優劣は、登記の前後によって決まります。
抵当権設定登記前に、賃借権登記をしている賃借人は新所有者(買受人)に対抗することができます。
抵当権設定登記後に、抵当不動産を賃借した人は新所有者(買受人)に対抗することができないのが原則です。
ここでは民法上の規定を解説しています。
借地借家法と要件が異なるところがあります。
本試験では問題文に「民法の規定では…」「借地借家法の規定では…」と記載があるので、そこで論点を確認するようにしましょう。
抵当不動産の賃借人の保護
抵当不動産を賃借している賃借人は、抵当権が実行されたら基本追い出されることになります。
でもそのような状態では賃借人は、不安定な状態になります。
不安定な状態に置かれる可能性がある、抵当不動産の賃借人を保護するために民法は賃貸借に対抗力を与える制度を設けています。
抵当不動産の賃借人とは
「抵当不動産の賃借人」とは、抵当権の目的物である不動産を賃借している人のことをいいます。
具体例で解説すると、たとえばBはAの債務を担保するためにB所有の甲建物に抵当権を設定しました。
抵当権は、抵当権の目的物を抵当権設定者(B)が使用・収益することができるのでCと賃貸借契約を結び甲建物を賃貸しています。
この場合のCが抵当不動産の賃借人です。
このAB間の抵当権設定契約の登記がBC間の賃貸借契約登記の前なのか後なのかで、抵当不動産の賃借人Cの対抗できるかが決まります。
簡単に言うと、抵当権と賃借権の優劣は登記の前後によって決まります。
登記しなければ、抵当権も賃借権も対抗することはできません。
抵当権設定前の賃借人の保護
民法上では抵当権設定登記前に、賃借権登記をしている賃借人は抵当権実行が行われ、抵当不動産が競売され所有者が買受人に移っても登記をしていれば対抗することができます。
たとえば、BがCにB所有の甲建物について賃貸借契約を結び、Cは甲建物に居住しています。
その後BはAにお金を借り、Aへの債務を担保するために抵当権を設定しました。
Bは弁済することができず、抵当権実行が行われ甲建物が競売にかけDが甲建物を買い受けました。
この場合、賃借権登記がある抵当不動産を買い受けたことになるので、賃借人Cは新所有者(買受人)Dに対して、賃借権を主張することができ、建物を明け渡す必要はなく、賃借人Cは買受人(新所有者)Dに対して、甲建物の賃借人であることを主張することができます。
賃借人Cが甲建物の賃借人であることを主張できるため、買受人(新所有者)Dは賃貸人として当然に承継され、買受人(新所有者)Dと賃借人Cとの賃貸借関係になります。
(④の段階でBC間の賃貸借契約は消滅している)
なので賃借人Cは、買受人(新所有者)Dに対して「賃料相当額」を支払うことによって甲建物に居住し続けることができます。
敷金関係も継承されるので、賃借人Cが旧所有者Bに支払った敷金は、新所有者(買受人)Dに継承されるため、賃借人Cが建物を明け渡す際は、新所有者(買受人)Dに対して敷金返還請求をすることができます。
ここでは民法の規定で解説しています。
借地借家法では、賃借人の対抗要件が「登記」だけでなく「建物の引渡し」だけでも対抗できるようになります。
民法での条件、特別法(借地借家法等)での条件、別々にしっかり押さえましょう。
抵当権設定後の賃借人の保護
抵当権設定契約の登記後に、賃貸借契約によって抵当不動産を賃借した者は、抵当権者や競売の買受人に対して対抗することはできません。
たとえば、BがAへの債務を担保するためにB所有の乙建物に抵当権を設定し登記も済ませました。その後、BはCと乙建物についての賃貸借契約を結びCが乙建物に居住している。
BがAに弁済することができず、抵当権の実行にて競売にかけられDが乙建物の買受人になりました。
このような場合、賃借人Cは抵当権者A、買受人Dに対抗することができません。
原則は、賃借人Cは対抗できないので抵当不動産(乙建物)をすぐに引き渡さなければなりません。
しかしそれでは賃借人がかわいそうなので、抵当不動産の賃借人を保護するために例外的に下記の2つの制度を設けてあります。
- 建物引き渡し猶予制度
- 抵当権者の同意を登記した賃貸借権に対抗力を与える制度
2004年(平成16年)以前は、短期賃貸借保護制度が置かれていましたが民法改正より原則的に廃止され、これに代わって「建物引き渡し猶予制度」が創設されました。
例外1)建物引き渡し猶予制度
抵当権者に対抗できない賃貸借により、競売手続きの開始前から抵当権の目的不動産を使用・収益していた者は、その建物が競売された後、買受人の買受けの時から6か月間、明渡しが猶予されます。
引き渡さなければならないのには変わりないのですが、引渡しに6か月の猶予があるということです。
しかし競売後6か月間の賃料相当額を支払う必要があります。
買受人D(新所有者)が抵当建物使用者(賃借人C)に対して相当な期間を定めて1カ月分以上の支払いを催告し、相当期間内に支払いがなければ、建物引き渡し猶予制度は適用されず、抵当建物の賃借人はその目的建物を引渡さなければなりません。
上の図の④競売の時点で、BC間の賃貸借契約は消滅しているため競売後の賃料相当額は不当利益として返還しなければなりません。
買受人D(新所有者)は抵当権設定当時の権利を買い受けることになるので、抵当権設定後に設定された賃貸借契約の賃貸人B(旧所有者)の地位は承継されません。
なので、敷金は買受人D(新所有者)に継承されることはありません。
敷金継承されないので、賃借人Cが乙建物引き渡しの際に敷金返還請求をする場合はその請求先は前賃貸人B(旧所有者)です。
賃借人Cが乙建物の利用を継続したけらば、買受人D(新所有者)との間で再度賃貸借契約を締結する必要があります。
賃借人Cと賃貸借契約を締結するかは買受人D(新所有者)に委ねられます。
ここで注意なのはこの制度は建物のみに適応され、土地には適応しないということです。
例外2 抵当権者の同意を登記した賃貸借権に対抗力を与える制度
登記をした賃貸借は、その登記前に登記した賃借権を有するすべての者が同意し、かつ、その同意の登記があるときは、これをもってその同意をした抵当権者に対抗することができます。
しかし抵当権者がこの同意の登記をするには、下記の承諾を得なければなりません。
- 転抵当権者など(その抵当権を目的とする権利を有する者)
- その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者
この規定は、賃貸用の不動産などは賃借権を継続しないとむしろ抵当不動産の担保価値を低下させることから認められました。