≪宅建試験対策≫相殺の禁止
「債権」は、宅建の本試験では、毎年4問出題されます。
範囲も広く、論点もたくさんあるのでいくら対策しても見たことない問題が出ることもあります。
難易度も幅が広いので、勉強してもなかなか点数が伸びにくい分野です。
しかし、丸々捨ててしまったら他の教科での挽回が厳しくなるので、易しい問題は得点できるように勉強しておきましょう。
相殺の禁止
「相殺」とは、双方がお互いに同種の債権を有する場合に、相殺適状が備わったときは、一方的意思表示で双方の債権と対等額で消滅させることをいいます。
相殺をするための要件が満たされいる状態を「相殺適状」といいます。
しかし下記の3つの場合、相殺が認められません。
- 債権の性質上、相殺を許さない場合
- 当事者が反対の意思表示をした場合
- 法律によって禁じられている場合
損害賠償債務の債務者は相殺をもって対抗することができません。
しかし、損害賠償の債権者が相殺をもって対抗することは出来ます。
差押えを受けた債権の債務者は、当該差押えの前に取得した債権を自働債権として相殺することはできます。
しかし差押え後に取得した債権では差押債権者に相殺を主張することは出来ません。
相殺の禁止は、相殺の中でも問われやすいので詳しく解説していきます!
債権の性質上、相殺を許さない場合
これは現実的に履行がなされないと意味がない債権のことです。
たとえば、AはBに対して講義を依頼しました。この場合、Bは講義をするという債務を負います。一方、BはAに対して講演会を依頼した場合にAは講演会に出演するという債務を負うことになります。
このように現実に債務の履行を行わなければ意味がないものは、相殺することができません。
これは、相殺をするための要件(相殺適状)にも共通しています。
相殺適状について詳しく解説しているのはこちら→相殺適状とは?
当事者が相殺反対の意思表示をした場合
これは当事者同士で、相殺の禁止特約を定めた場合のことです。
しかし、相殺禁止特約は善意の第三者には対抗できません。
この善意の第三者とは、具体的には債権の譲受人です。
たとえば、AはBに対し貸金債権を有し、BはAに対して代金債権を有し相殺禁止の特約を定めていました。CはAに対して貸金債務を負っています。
その後、Bが代金債権をCに譲渡したが、CはAB間の相殺禁止特約について知りませんでした。
この場合、譲受人Cは相殺禁止特約について善意なので相殺を主張することができ、Aは相殺禁止特約を理由に相殺を拒むことができません。
これは債権譲渡の譲渡禁止特約と論点は一緒です。→債権譲渡の制限
法律によって禁じられている場合
ここが相殺の禁止の1番の重要論点です。
加害者からの相殺はできない
民法第509条
債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。
不法行為によって生じた債務とは、損害賠償債務のことです。
たとえば、AはBに対してお金を貸していました。
AはBがなかなかお金を返してくれないので、Bを殴ってしまいました。
登場人物の立場を整理します。
A:貸金債権者・損害賠償債務者(加害者)
B:貸金債務者・損害賠償債権者(被害者)
このような場合、加害者であるAは貸金債権を自働債権にして損害賠償債務を相殺にて消滅させることはできません。
言い換えると、「Aの貸金債権=自働債権」「Bの損害賠償請求権=受働債権」にして相殺することは禁止されているということです。
加害者からの相殺を認めてしまうと不法行為の損害賠償債務を免れてしまいます。
そうすると、殴られた治療費等が現実的に被害者に支払われなくなってしまいます。
なので被害者が金銭支払いによる現実的な救済を受けさせるという被害者保護の観点損害賠償請求権を受働債権にすることは禁止されています。
また不法行為によって発生した債権(損害賠償請求権)を受動債権として相殺することを認めてしまうと、「貸したお金の分だけ殴ってやれ!」と新たな不法行為を誘発する可能性があります。
なので加害者からの相殺は認められていないのです。
不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とする相殺はできる(判例)
不法行為によって発生した債権(損害賠償請求権)を「受働債権」として相殺を禁止しているだけで、「自働債権」として相殺することは可能です。
言い換えると、「Aの貸金債権=受働債権」「Bの損害賠償請求権=自働債権」として相殺することはできるということです。
被害者を保護するために禁止されているだけなので、被害者から相殺を主張することは可能です。
まとめると、不法行為に基づく損害賠償債権が受働債権の相殺なら認められないが、自働債権なら認められるということです。
覚えにくい人は「加害者からの相殺はできないが、被害者からの相殺はできる」と覚えておきましょう!
差押えを受けた債権の相殺の可否は債権の取得時期で決まる
民法第511条
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
支払いの差し止めとは差押えのことです。
第三債務者とは、差押えを受けた債権の債務者のことです。
第三債務者はこれは差押え前に取得した債権を自働債権として相殺することはできるが、差押え後に取得した債権は相殺することはできないということです。
たとえば、CはAに対して150万円貸し、AはBに甲土地を売却して代金債権を有しています。
その後Cは弁済されなかったためAの代金債権を差押えした後、BがAに対して100万円貸しました(貸金債権)。
この場合、第三債務者Bは相殺を主張して代金支払債務を消滅させることはできません。
第三債務者Bの貸金債権は、Cが差押え後に取得した債権なので相殺できません。
Cにとってみれば当然で、差押えたAの債権がBの相殺によって消滅させられるのは不当です。
しかし、Bの貸金債権がCによる差押え前に取得したものなら相殺を主張することができます。
この貸金債権は差押え前に取得していれば、第三債務者Bは相殺適状にさえ達していれば、弁済期の前後を問わず相殺することはできます。
重要なのは、第三債務者が取得した債権は差押え前なのか、差押え後なのかです。
差押え前なら相殺することはできますが、差押え後なら相殺することはできません。
賃借人が抵当権設定登記後に取得した債権は相殺することができない
抵当権者が、物上代位を行使して賃料債権を差し押さえた後は、賃借人は抵当権設定登記後に取得した反対債権を自働債権とする賃料債権との相殺をすることができない。(判例)
たとえば、BはAに対する債務を担保するためにB所有の甲建物に抵当権を設定し登記を完了しました。その後Bは甲建物をCに貸し、賃料を受領しています。
しかし、BはAに弁済することができず賃料を差押えられました。
差押えを受けた後、CはBにお金を貸しました。
登場人物の状況を整理します。
A:債権者
B:債務者・甲建物賃貸人・貸金債務者
C:甲建物賃借人
貸金債権者 差押えの目的物:甲建物の賃料債権
この場合、抵当権設定登記後に発生して賃料債権を差押えられた後に、賃借人Cが取得した貸金債権を自働債権として相殺することはできません。
簡単にまとめると、抵当権設定登記後・差押え後に取得した債権は自働債権として相殺することはできない。ということです。