≪宅建試験対策≫相殺適状
「債権」は、宅建の本試験では、毎年4問出題されます。
範囲も広く、論点もたくさんあるのでいくら対策しても見たことない問題が出ることもあります。
難易度も幅が広いので、勉強してもなかなか点数が伸びにくい分野です。
しかし、丸々捨ててしまったら他の教科での挽回が厳しくなるので、易しい問題は得点できるように勉強しておきましょう。
相殺適状
「相殺」とは、双方がお互いに同種の債権を有する場合に、相殺適状が備わったときは、一方的意思表示で双方の債権と対等額で消滅させることをいいます。
そして相殺をするために一定の要件を満たしている必要があります。
相殺させてください!と意思表示(主張)した側の相殺しようとする債権を、「自働債権」と言います。
相殺させてください!と意思表示(主張)された側の相殺される債権を、「受働債権」と言います。
相殺をするための要件が満たされいる状態を「相殺適状」といいます。
なので、相殺を主張するには相殺適状である必要があります。
相殺適状の要件は、下記の5つです。
- 相殺する当事者間に債権の対立があること
- 双方の債権が同種の目的を持つこと
- 双方の債権が共に弁済期にあること
- 双方の債権が有効に存在すること
- 双方の債権がその性質上相殺を許さないものでないこと
では、ひとつずつ解説していきます!
相殺する当事者間に債権の対立があること
これは当然なのですが、相殺する当事者間が債権を有していてその債権が対立関係でなければならない。ということです。
たとえば、AはBに対して貸金債権を持っていて、BはAに対して代金債権を有しています。
上の図のように、当事者間に対立する債権を有している。ということです。
ここでひとつ判例を紹介します。
物上保証人が債権者に対して有する債権でも相殺はできないものとされる(判例)
債権者(抵当権者)が債務者に有する債権は、物上保証人に対して有する債権ではありません。
ということは、当事者の債権は対立関係にありません。
なので、物上保証人が債権者に対して債権を有していても相殺はできません。
双方の債権が同種の目的を持つこと
典型的には、どちらも「金銭債権」で相殺する場合は同種に当たります。
債権が同種でない例としては、「金銭債権」と「引渡請求権」などです。
具体的にいえば、AはBにA所有の土地を売却し、Aは代金債権を有し、BはAに対して土地の引渡請求権を有している場合です。
このような場合は、別種類の債権なので相殺することはできません。
こんな相殺することができたら、この土地の売買契約の意味がありません。
双方の債権が共に弁済期にあること
相殺適状のよく問われる論点はこの要件です。
相殺は、債権消滅事由のひとつです。
つまり、相殺を主張するということは相手に対して履行を強制させる形になります。
なので、債権が履行が強制できる状態である弁済期が到来している必要があります。
ただし、例外的に受働債権は必ずしも弁済期である必要はありません。
たとえば、AがBにお金を貸していて、BはAに土地を売りました。
Aが有している債権は貸金債権で、Bが有している債権は代金債権です。
Aの土地代金支払い期日が3月31日(土地代金支払債務)
Bの貸金の返済期日が1月31日だとします。(貸金債務)
2月28日時点で、相殺を主張できるのはAのみです。
Aが相殺を主張するということは、Bの貸金債務の履行を強制させる形になります。
AがBに対する貸金債権は弁済期が到来しているので、貸したお金を返させることができる状態なので、Aは貸金債権を自働債権として相殺を主張することができます。
2月28日時点で、Bの土地代金支払債権は弁済期が到来していません。
この状態で、BがAに対する土地代金支払債権を自働債権として相殺してしまうと
Aの土地代金債務の履行を強制する形になります。
しかし、Aは3月31日まで支払いの猶予があるので、その日までは履行しなくてもよいのです。これを、期限の利益といいます。
BがAに対する土地代金債権を自働債権として相殺してしまうとAの期限の利益を奪うことになり、Aの不利益になります。
なので、自動債権が弁済期が到来していなければ相殺を主張することができません。
受働債権は弁済期が到来している必要はありません。
Bの土地代金債権は、2月28日の時点では弁済期は到来してないですが、Aが相殺を主張するということは3月31日まで支払いの猶予があるのに放棄する。ということになります。
Bにとっては、弁済期より早く弁済されることになるので不利益はありません。
なので、自働債権さえ弁済期が到来していれば、受働債権については弁済期が到来していなくても、期限の利益を放棄して相殺することができる。ということです。
まとめると、自働債権が弁済期であれば、受働債権が弁済期でなくても相殺できる!ということです。
なので、下記のような判例があります。
弁済期の定めのない債権は弁済期にあるから、これを受働債権として、弁済期にある自働債権で相殺できる。
双方の債権が有効に存在すること
当然ですが、相殺する債権が消滅してしまえば、相殺することができません。
なのでどちらか一方の債権が無効になれば、相殺も無効になります。(判例)
相殺適状が生じても、相殺の意思表示の前に受働債権が弁済や契約解除により消滅したときは、相殺することはできません。(判例)
双方の債権がその性質上相殺を許さないものでないこと
これは現実的に履行がなされないと意味がない債権のことです。
たとえば、AはBに対して講義を依頼しました。この場合、Bは講義をするという債務を負います。一方、BはAに対して講演会を依頼した場合にAは講演会に出演するという債務を負うことになります。
このように現実に債務の履行を行わなければ意味がないものは、相殺することができません。
そのほかに、自働債権に同時履行の抗弁権が付着する債権、催告及び検索の抗弁権が付着する保証契約上の債権は相殺することはできません。(判例)
なぜなら、相手の抗弁権を奪ってしまうことになるからです。
受働債権に抗弁権が付着している場合には、自ら抗弁権を放棄することになるだけなので相殺することができます。