≪宅建試験対策≫契約の目的物の原始的不能と危険負担ついてわかりやすく解説!
「債権」は、宅建の本試験では、毎年4問出題されます。
範囲も広く、論点もたくさんあるのでいくら対策しても見たことない問題が出ることもあります。
難易度も幅が広いので、勉強してもなかなか点数が伸びにくい分野です。
しかし、丸々捨ててしまったら他の教科での挽回が厳しくなるので、易しい問題は得点できるように勉強しておきましょう。
契約の目的物の原始的不能と危険負担についてわかりやすく解説!
「契約」とは、数人の当事者が互いに申込と承諾という相対立する意思表示が合致することによって何らかの拘束力をもたせることを約束させる法律行為のことです。
「原始的不能」とは、契約が成立する前に目的物が滅失している場合のように、法律行為の成立以前に、それによって成立する債務の履行が不可能なことが確定していることをいいます。
原始的不能の場合の契約は成立しません。
「危険負担」とは、双務契約において、当事者の過失がない場合により一方の債務が履行不能により消滅した場合、相手の債務も消滅するか否かの問題のことをいいます。
双務契約において当事者の過失で債務の履行不能になった場合を「債務不履行」といいます。
双務契約成立後に、当事者の過失ではない事由によって債務の履行不能になった場合は原則として「債務者危険負担主義」をとっています。
しかし、双務契約の目的物が「特定物」の場合は例外的に「債権者危険負担主義」となります。
原始的不能の場合は契約自体が成立しない
「原始的不能」とは、契約が成立する前に目的物が滅失している場合のように、法律行為の成立以前に、それによって成立する債務の履行が不可能なことが確定していることをいいます。
たとえば、AはBとの間で自己所有の甲建物を1000万円で売り渡す契約を締結しました。
しかしその甲建物は契約の数日前に滅失していた。
甲建物はこの売買契約の目的物です。
この場合、契約をした当時すでに契約の目的物(甲建物)は存在していなかったので、売主Aの債務(甲建物引渡し債務)は原始的に不能です。
なので、この契約は成立しません。
売主Aの債務が成立しないので、買主Bの債務(代金支払債務)も成立しません。
目的物の不存在(甲建物の滅失)について買主Bが善意無過失だった場合、買主Bは売主Aに対してその責任を追及することができます。(=損害賠償請求できる)
たとえば、買主Bが甲建物を購入できると思って引越しの準備をしたりしていたとします。
この場合、買主Bが目的物の不存在(甲建物の滅失)について善意無過失であれば、売主Aに対して「無駄な引っ越し準備をした損害を賠償して!」と主張することができます。
しかし、売主Aが契約締結に無過失なことを立証すれば買主Bは売主Aに対して損害賠償請求することはできません。
「契約締結に無過失」とは例で言うと、履行の不能(甲建物を引き渡すことができない)ということを過失なく知らないまま、AB間の売買契約を結んだ。ということです。
不当利益の返還
上の例で、もし買主Bが甲建物代金を支払っていた場合はどうなるのでしょうか?
もし買主Bが甲建物代金を支払っていた場合は、売主Aは受領した代金を返還しなければなりません。
契約が成立していない以上、債権も債務も発生していないので売主Aが甲建物代金を受領する法律上の原因がありません。
このことを「不当利益の返還」といいます。
原則は債務者危険負担主義
「危険負担」とは、双務契約において、当事者の過失がない場合により一方の債務が履行不能により消滅した場合、相手の債務も消滅するか否かの問題のことをいいます。
第536条
1項 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
双務契約において、当事者の過失がない場合により一方の債務が履行不能により消滅した場合の原則は、債務者危険負担主義です。
しかし、目的物が不動産などの特定物の場合は、例外的に債権者危険負担主義になります。
宅建で出題されるのは、例外であるこの「債権者危険負担主義」です。
目的物が特定物なら債権者危険負担主義
たとえば、AはBとの間で自己所有の乙建物を1000万円で売り渡すという契約を締結しました。
しかし引渡し前に落雷により乙建物が滅失してしまいました。
落雷のような当事者に過失がない場合に一方の債務が履行不能になることを、「危険負担」といいます。
当事者に過失がある(たばこの不始末による焼失など)場合に一方の債務が履行不能になることを、「債務不履行」といいます。
このような場合、売主の引渡し債務が履行不能になっているので立場は下記のとおりです。
売主A:債務者
買主B:債権者
双務契約(例では売買契約)の目的物が特定物の場合は、債権者危険負担主義です。
なので買主Bは乙建物の引渡しを受けることができなくても、乙建物代金の支払い義務を免れることはできません。
しかし、売主が乙建物の火災保険金を受領した場合は買主はその償還を請求することができます。(判例)
売主が危険負担をする旨の特約は有効
民法では買主が目的物を滅失するかもしれない危険を負うということになります。
しかし、それでは現実的に買主の負担が重すぎるため、「売主が負担する旨の特約」は有効とされています。
なので実際の取引の場合は、「売主が負担する旨の特約」がなされていることがほとんどです。
履行遅滞中に滅失したら債務者が債務不履行の責任を負う
上の例で、もしAB間の乙建物売買契約を締結した後に、売主Aが引渡し期間を過ぎても乙建物を引渡さずその間に落雷で乙建物が滅失した場合はどうなるのでしょうか?
履行期間(引渡し期間)を過ぎても履行(引渡し)をしないことを、「履行遅滞」といいます。
引渡し債務者(売主)が履行遅滞中に履行が不能になったときは、履行が不能になった理由が過失がない場合でも、債務者(売主)が債務不履行の責任を負います。
なので、買主Bは売主Aに対して契約解除や損害賠償請求をすることができます。