≪宅建試験対策≫時効の援用と時効の効力
宅建の本試験での時効の問題の出題頻度は、2年に1回程度です。
出題頻度的にはそんなに高いわけではありませんが、時効はほかの項目と絡めて出題され、ほかの項目の論点を理解するうえで基礎的な知識となる項目です。
毎年出題される項目ではないし、単独で出題されることも少ないので勉強が疎かになりがちの項目です。
しかし、民法の中では得点しやすい項目でもあるので得点しやすい項目でしっかり得点していくことは宅建試験合格のためには必須です。
時効の援用と時効の効力
「時効の援用」とは、時効が完成した際に時効によって利益を受ける者が時効の利益を受けることを主張することです。
時効の援用は、契約の当事者である主たる債務者はもちろん、物上保証人や連帯保証人などの保証人・抵当不動産の第三取得者も主張することができます。
それとは逆に、時効の利益を受けない旨を主張し、時効の効力を発生しないものとすることを「時効の利益の放棄」といいます。
時効の利益の放棄は、時効完成前はすることができません。
時効には遡及効があり、時効の効力は起算日に遡ってその効果が発生します。
時効の援用は、いろんな項目で出てくる重要な用語です。
宅建試験合格のためには、絶対押さえるべき論点です。
時効の援用とは?
「時効の援用」とは、時効が完成した際に時効によって利益を受ける者が時効の利益を受けることを主張することです。
たとえば、BはA所有の甲土地を自主占有し、Aも請求等しなかったため時効中断することなく20年経過し、時効が完成しました。
この場合、Bは「時効が完成したので、甲土地をもらいます!」と主張することを「時効の援用」といいます。
時効が完成しても、時効の援用をしなければ時効の効力が発生することはありません。
時効の援用は義務ではなく、本人の自由意思に委ねられています。
時効の利益の放棄
時効の援用は義務ではないので、時効の利益を受けない旨の主張もすることができ、「時効の利益の放棄」といいます。
たとえば、AはBにお金を貸したがその後Aは請求等せず10年経過しAのBに対する金銭債権は消滅しました。
債権は10年で消滅しますが、しかしBは、お金を貸してくれたAに感謝していて何年かけてもAに借りたお金を返したい!と思っています。
このような場合、10年で金銭債権は消滅しているのでBはAにお金を返すことはできない!となるのは、両者にとって不利益なので民法は、時効の利益の放棄することも認めています。
しかし、時効の利益の放棄は、時効の完成前にはすることはできません。
なぜかというと、先ほどのAがBにお金を貸した場合に、お金を貸すAが立場的に強くなってしまいます。
そんなAがBに「時効の利益を放棄しろ!」と脅し、時効の利益を放棄をさせることを防ぐためです。
なので、時効の利益の放棄は時効の完成後にしかすることは出来ません。
時効利益の喪失
一度放棄した権利を戻すことは原則できません。
時効の利益の放棄は、時効を援用する権利である”時効の援用権”を放棄する行為です。
なので、時効の完成を知らずに時効利益を放棄してしまったらその後、時効の完成の事実を知っても時効の援用をすることは出来ません。
たとえば、AがBにお金を貸していました。
Bはなかなか返済できませんでしたが、やっとお金ができたので全額一気に弁済しました。
しかしBが弁済したときには、時効が完成しBがAに負う金銭債務は消滅していました。
この場合、Bは弁済後に時効完成の事実を知ったからといって時効の援用をすることは出来ません。
弁済や承認など、時効の利益を放棄してしまったら時効完成を知らなかったとしても、時効援用権を喪失することになります。
時効の利益を受ける者
時効の援用権や時効の利益の放棄は、時効の利益を受ける者にあります。
時効の利益を受ける者は、下記のとおりです。
*主たる債務者
*保証人(物上保証人・連帯保証人)
*抵当不動産の第三取得者
時効の援用権の効力も時効の利益の放棄の効力も、相対的に生じます。
なので、主たる債務者が時効の利益を放棄しても、その他の時効の援用権者がいる場合はその他の援用権者が時効を援用することができます。
たとえば、BはAからお金を借りる際にC所有の乙建物を担保に提供しました。
その後、Aは請求等せず時効が完成していました。
しかし時効が完成したにもかかわらず、主たる債務者Bが時効の援用をしようとしません。
この場合、物上保証人Cは時効の援用をすることができます。
物上保証人であるCは時効が完成することによって自己所有の乙建物を奪われずに済みます。
なので、時効によって利益を得る者は自己の利益のために時効の援用・時効の利益の放棄をすることが認められています。
時効の効力
時効が完成し、援用がなされると、その効果として権利が取得され、または消滅します。
そして時効の効力は、その起算日に遡って効力を生じます。
時効の効力は、その起算日にさかのぼるため、以下のような時効の進行中の事実状態が保護され、維持されることになります。
- 起算日以後に得られる利益は時効取得者に帰属する。
- 消滅時効により債務を免れた者は、起算日以後の利息・損害金の支払いを免れる
- 時効取得された物について、起算日以後に損傷した者は、原所有者ではなく、時効取得者に対して損害賠償をすることになる。
ここでひとつ重要な判例を紹介します。
時効による農地の所有権は原始取得であり、農地法第3条の許可を受けなければならない行為ではない(判例)
「原始取得」とは、権利を他人から譲り受けるのではなく、新しい権利として取得するものです。
逆に、売買や相続などで権利を他人から譲り受けるのを「承継取得」といいます。
時効によって取得した農地は、農地法第3条の許可は必要ない。ということです。